その肩こりは心筋梗塞発の前兆かも?
こんにちは。いとひや整骨院(千葉県、千葉市、鎌取、おゆみ野)の糸日谷です。
今回のテーマは心筋梗塞の前兆についてです。
先日、左の肩こりを訴える患者様が来院されました。でも、訴える内容が通常の肩こりとは違ったのです。
下の動画は実際の問診の様子です(3分19秒)。
訴えの内容をまとめると
①散歩をして10分位すると左肩がズーンと重くなる
②散歩を終え、家に帰ると肩の重さは消える
③散歩コースによっては40分歩いても肩の重さは出ない
④今までの人生で肩こりの経験はなかったのに、今年の秋ぐらいからこの現象が始った
このような訴えでした。
■なぜ散歩コースによって発作が起きなかったのか?
私はすぐに「これは心臓に負担がかかる際に出現する心筋梗塞発作の前駆症状」だと思いました。
でも、医者でもない私がそのような事を軽々しく口にできないと思ったので、さらに問診を続けました。
③の散歩コースの違いで関連痛発作がでない理由を調べるため、問診を続けたところ、ある法則に気が付きました。
散歩コースは2つあるのですが、一つは繁華街を通るコース。
もう一つは公園内を歩くコースです。
お話を伺いながら、同じ40分の散歩でも繁華街コースでは発作は起きず、公園コースでよく発作が起きているという法則に気づきました。
なぜこのような現象がおきるのかというと、繁華街コースには信号があり、連続歩行時間が10分を越える前に立ち止まり、心臓を休められていたのです。
一方の公園コースには信号が無く、延々と連続で歩けます。
その結果、この方の心臓の限界である10分を越えて歩き続け、心臓が悲鳴を上げていたのだと思いました。
私は一応、肩こりの原因となる筋硬結があるのか、治療して調べましたが、そのような硬結はありませんでしたので、これはほぼ間違いなく心臓が原因だと思い、本人に循環器内科受診を強く勧めました。
医者ではない私が言っても説得力がないかもしれないと思ったので、患者様が納得できるよう今の状況を真摯に伝え、今日中に受診するようお願いしました。
本人はその時はまだ半信半疑。というのはこの方、若い頃マラソンをやっていたという自負があり、最近調べた心電図検査で異常が無かったからです。
血圧も140位でそれほど高い数値でもない。
「心臓が悪いわけないんだけどなぁ。でも確かに肩こりじゃないよなぁ…」
そんな感じでしたが、私の言葉を信じ、当院の治療後、すぐに街の循環器内科を受診されたそうです。
そこですぐに心臓の異常が分かり、応急処置のための薬が処方され、さらなる精密検査のため近々で日医大の受診となりました。
医者も「良く気が付きましたねぇ。危ないところでしたよ」と驚いていたそうです。
後日、この患者様からお電話を頂き、
「いとひや先生に言われた時は半信半疑でしたが、医者に異常を伝えられた時はゾッとしました。命拾いしました」と仰られていました。
■心筋梗塞発作について
【前兆の特徴】
●胸の痛み、圧迫感、紋扼感
●胸やけ
●腕・肩・歯・あごの痛み●数分〜10分程度で完全に消失する
●繰り返すことが多い
●階段や歩行等の労作で出現・増悪することがある●圧迫や体位、深呼吸によって出現する場合、前兆の可能性は低い
●一瞬〜数秒で消失する場合、前兆の可能性は低い心筋梗塞は非常に怖い病気ですが、その発症前に「前兆を約半数の人で認めます」
このグラフは、大阪での調査結果ですが、急性心筋梗塞で入院した患者さん全体の中で、「前兆」があった人の割合を赤で、「前兆」がなかった人の割合を青で表示しています。約50%の患者さんに「前兆」を認めることがわかりますが、この割合は1998年から2012年まで変わっておらず、「前兆」があっても病院へ行く必要があるという意識を持った人は増えていないか、病院へ行く必要がある重大な症状(心筋梗塞の前兆)とは感じていないのかもしれません。
その症状は胸の痛み、圧迫感、紋扼感だけでなく、胸やけ、まれには腕・肩・歯・あごの痛みとして現れることもあり、心臓とは関係のないように感じられることもあります。しかも、その症状は数分程度で治まることが多いので、あまり深刻に考えず見落としてしまうことが多いようです。
「前兆」の症状の特徴を上に示していますので、今までなかったこのような症状が出現した場合には、すぐに病院(循環器内科)を受診して検査を受けてください。
前兆を見逃して心筋梗塞を発症してしまえば、致死率は非常に高くなってしまいますので、できるだけ早く受診することをお勧めします。
心筋梗塞は40%が死に至る致死率の高い病気です。
でも病院にたどり着けば90%は助かります。
そのため、一刻も早い専門医療機関の受診が重要です。
しかも、50%は数日~数週間前に前兆の胸部症状があり、この時期に診断すればより安全に治療することができます。
■肩こりと心臓の関連痛の見分け方
肩こりや五十肩は“肩を動かすと痛む”。一方、関連痛は“肩の動きと関係なく痛む”。
痛いところを動かしたり、圧してみて痛みが出るならば様子を見ていればよいことが多く、動かしても痛みの強さが変わらない場合は、肩こりからくるのではないかもしれません。
また肩凝りならば、その原因となる作業(パソコンを長時間やったなど)があるはずです。一旦肩が凝ると、その作業を止めたからといってすぐに肩こりは消えません。
でも心臓からの関連痛の場合、肩こりが出現したと思ったら、散歩を止めたらピタッと肩凝りが消えるといった現象が見られます。
「あれ、何か変だなぁ?」と思ったら、きちんとした知識と経験のある医療者にアドバイスを求めることです。
医学的知識のない治療家(?)が残念ながら世の中にはいます。患者様はどの人がきちんとした知識があるのか分からないものです。
ですから、一番はやはりこのような症状がある場合は、マッサージや整体などに行く前に循環器内科を受診することが一番安全、安心ではないかと思います。
そしてご自身でも知識を身につけ、ご自分の身体を守ることも重要だと思います。
■治療家、医療従事者の方へ
今回はたまたま肩こり治療の問診で異常に気付き、幸運にも心筋梗塞発作が起きる前に食い止めることができました。
血圧もそれほど異常がなく、本人は心臓に自信がある。そんな状態でしたので一瞬伝えるのを迷いましたが、循環器内科受診を勧めて結果、本当に良かったです。
心臓からの関連痛は心臓に負荷がかかった際に出現します。
出現部位は、左肩、胸といった心臓を連想させる部位だけでなく、肋骨、腕全体や時に左小指にでる場合もあるのです。
是非、この経験を皆でシェアし、患者様の治療に役立ててもらえればと思います。
たとえ良くある肩こりの訴えだとしても、一番最初に「まずは恐い病気でないのか?」という視点を持って問診を始め、トップダウン形式で病態に迫ることが重要です。
もしも「心臓かも?」と思って、それを患者様に伝えないより、伝えて調べて問題なかったらそれでいいじゃないですか?
もし本当に心筋梗塞の前駆症状だったとしたら、私達が気が付いたことでその方の命が救われることもあるのですから。